ホスピタリティマネジメントは
経営学の一分野

ホスピタリティマネジメント
とは
Win・Winではなく
Happy・Happyになるための
学びと研究の経営学

戦いに勝つための学問ではなく、
幸せになるための学問

「競争から共創へ」

おもてなしではない「ホスピタリティ」によるマネジメント

「ホスピタリティ」は見返りを求めない、唯一の見返りと言うならば、信頼・安心・歓喜・幸福を得ること。

それも個々の人の間だけのものではなく、組織・地域・社会全体にもつながる働きが「ホスピタリティ」です。ホスピタリティとは、ゲストとホストが新たな価値を共創すること。おもてなしともサービスとも違う新しい概念です。そして、実際に具体的に使えるように体系化したマネジメントが「ホスピタリティマネジメント」です。

ホスピタリィマネジメントの研究の始まり

日本が低成長を強いられるようになった始まりが1992年でした。これ以降、それまで強調され美化されてきた「滅私奉公」と「自己犠牲の精神」は影をひそめるようになりました。
また、「協調性」もその一つでした。これらの価値観に替わって登場したのが、「自律性」と「自己責任」です。そこで、「自律性」という言葉がどこから来たのか? 気になるようになり調べていく中で「ホスピタリティ」に行き着くことができました。私にとってのホスピタリティマネジメント研究の始まりです。

また、機を同じくして、日本におけるホスピタリティ研究が1992年にスタートしました。当初は日本ホスピタリティ研究会として発足し活動していましたが、1995年に日本ホスピタリティ学会、そして1997年には日本ホスピタリティマネジメント学会へそれぞれ名称変更し脱皮していきました。それと並行して学問として認められるために、毎年、学術団体登録へ向けて準備を重ねていきました。その努力が結晶として実を結ぶ日がやってきました。1999年9月14日に日本学術会議から第18期学術団体(経営)として登録認可されたのです。(この時に、私は幹事⻑を務めていました。)

このことを契機にして、日本で「ホスピタリティ・ウェイブ」が起こりました。大学においてはホスピタリティに関する学部、学科、専攻、コースが誕生し、ホスピタリティを冠にした科目が数多く生まれました。
また、2000年には⻑崎国際大学がホスピタリティを建学の理念にして開学しました。大学院では2002年に立教大学大学院ビジネスデザイン研究科がホスピタリティ専攻を開設しました。そして、書店ではホスピタリティコーナーが設置されるようになりました。

出所:
吉原敬典(2005)『ホスピタリティ・リーダーシップ』白桃書房の201頁-207頁を参照。

「おもてなし」と「サービス」と「ホスピタリティ」の違いとは そして 「ホスピタリティマネジメント」へ

「おもてなし」という言葉は、平安時代から鎌倉時代にかけて使われるようになり、手心を加えてもらうために、金品を送ったり、ご馳走をしたりしたことが「おもてなし」のルーツ。「何らかの手段を持って自らの意図を成し遂げる」という意味があります。つまり、見返りを求めることが「おもてなし」です。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会をはじめとして、多くの贈収賄事件を引き起こし、おもてなしDNAとして証明されました。

「サービス」というのは、もともと「仕える」という意味。そこには主従関係が存在します。つまり「サービス」にはもともと一方的で、マニュアル的、集団的、義務的などの特徴があり、直接的に対価を求める経済的な活動。現在のサービスの無人化、自動化と経済化について説明することができます。

「ホスピタリティ」については、この概念のルーツはラテン語の「ホスペス」。「ポティス」(迎える人)と「ホスティス」(迎えられる人)の合成語。このポティスには「能力がある」という意味があり、ホスティスはいわゆるゲスト、医療機関でいえば患者。「ホスピタリティ」はホストとゲストが一緒につくりあげることで成り立つ概念です。双方向的、補完的、個別的、配慮的などの特徴があります。

「ホスピタリティマネジメント」は医療界だけではなく⺠族、国籍、性別、年齢、経験、職業に関係なく、人類が進むべき道標になり得るもの。ただし、組織である以上、持続性を担保するために適正な利益を確保しなければならない。その意味で、経済的な活動としての「サービス」を否定しているわけではなく、ここで提言する「ホスピタリティマネジメント」は、「サービス」を基本とし、「ホスピタリティ」へ重点を移し、両方ともマネジメントする必要のあるフレームワークです。「二項両律マネジメント」と表現しています

出所:
吉原敬典(2019)「患者と共に医療をつくる「ホスピタリティ価値」の重要性」
『TKC医療経営情報』NO.297 AUGUST 2019,巻頭インタビュー・これからの医療経営に必要な視点−TKC 全国会医業・会計システム研究会より引用し適用した。
 「ホスピタリティ」「サービス」「おもてなし」の違い
出所:
吉原敬典(2020)『ホスピタリティマネジメントが介護を変える−サービス偏重から双方向の関わり合いへ−』ミネルヴァ書房の33頁の表1−1を再構成した。

「ホスピタリティマネジメント」「サービスマネジメント」 と 「ヒューマンリソースマネジメント」の関係

ホスピタリティマネジメントの中心テーマは、「ホスピタリティ価値」の共創です。
ホスピタリティ価値とは、「えっ!そこまでやるの!」「こんなことが出来たらいいのになあ〜」「困っていることが困らなくなる」「我慢していることを我慢しなくて済む」など、他にない特徴づくりをして顧客(個客)をはじめとしたステークホルダーから評価される価値のことです。期待を超えたところで創造性を発揮することが求められています。

そのホスピタリティ価値を生み出すためには、まずは安定的に継続的に期待に応えることが大切です。不特定多数の顧客からの期待に応えることで「サービス価値」を高めます。

すなわち、「より早く」「より安く」「より多く」「簡単に」「便利に」「正確に」「確実に」「明瞭に」「清潔に」「安全に」等のスタンダードな期待に応えることがサービスマネジメントの中心テーマです。

これら2つのマネジメントの循環を良くすることが全体マネジメントの肝だと言えます。二項対立ではなく、「二項両律のマネジメント」と呼称しました。

そして、この二項両律マネジメントを土台で支えることがヒューマンリソースマネジメントの中心テーマです。私たち人間しか生み出すことができない価値、すなわち「人間価値」を高めることが二項両律マネジメントを成功へ導く鍵と言えます。

人間価値には、次の5つの視点があります。

  1. 礼儀・節度、態度、物腰、言葉遣い、ルール・約束事の遵守。
  2. ポリシー、志、想い(構想)。
  3. 好きなこと・得意なこと、興味・関心領域。
  4. 能力、経験、活動内容・活動実績、資格・特技。
  5. 気質・性格、対人関係の基本姿勢・行動傾向。

ホスピタリティを実践する人は、「価値共創人」

今も、絶対的な影響を与えている理論にマズローの動機理論がある。その内容はここでは割愛するが、最も素朴な疑問として一つの問いが出てくる。

それは、4つの段階の欲求がある程度満たされると、自己実現欲求が生じてくる。そして、この欲求が最も高次の欲求とされている点である。

私は、「自己実現欲求は己のことであって、いやむしろ他者や社会に欲求そのものが向かっているのではないか。」という問いである。

ホスピタリティ概念のルーツを吟味すると、「自律」「交流」「補完」という意味が導き出される。自己実現欲求は、直接的には「自律」に関係している。リーダーシップについて語る際に、その源泉はここにあると言ってもよいであろう。

しかしながら、最も高次の欲求が自己実現欲求であろうか。いや、複数人で同じ方向を見て一緒に価値共創することではないのか。人間一人ひとりを捉えると、誰もが限界多き存在である。知識、情報、経験、能力、認識、判断のどれをとっても限界である。限界感をもっている存在であるといえる。すなわち、一人では「しがない枯れすすき」なのである。

したがって、ホスピタリティは限界感を実感している人が実践可能であると言うことができよう。だから、自己を鍛え、交流し補完し合うのである。

何のためか。
他者の喜びのため自らの能力を発揮する。また、社会の発展に貢献する価値を創造するためである。Happy・Happy になるためなのである。ここで使用する創造という言葉は共創と表現してもよいであろう。しかるに、ホスピタリティを実践する人とは「価値共創人」であると言えよう。

今、大切にしていること これからの ホスピタリティマネジメント

よい研究とは、多くの人が気づいていないことを重要であると明らかにすることです。理論を発展させるためには、研究の前提になる概念について、そのルーツにさかのぼり明らかにしなければなりません。

組織関係者の相互成⻑、相互繁栄、相互幸福を目指して、環境、社会、人間に配慮する時代。
まさにSDGs、ESG、CSVが求められています。

社会課題が経営課題になる時代。また、株主第一主義からステークホルダー主義へ転換する時代だと言えます。その全体構造は以下の通りです。

経営の重点として、マルチ・ステークホルダーとの共存可能性を高めることを目指します。それには、以下の3点にあるように倫理的な価値判断を行なう必要があります。

  • 社会への配慮 ➡ 地域社会の発展と雇用を確保する。
  • 環境への配慮 ➡ 地球温暖化、SDGsなど社会的な安心と安全を確保する。
  • 人間への配慮 ➡ 欲求や願望を叶える心豊かな生活を実現して一緒に喜び合う。

また同時に、経営の基本として経営の存続可能性を高めることを目指します。それには、適正利益を確保するなど損得勘定による価値判断を行なうことが求められます。適正利益とは、地域社会の中で支持されるために、特に適正な賃金の支払い、人財開発費、研究開発費、IT投資等の職場環境改善費など未来創造へ向けての経費使用が可能になる利益のことを指します。

おもてなし、サービス、ホスピタリティの概念をそれぞれ吟味して、相互の違いを明確にして使用する時代。また、相互の関係を明らかにして適用する時代。そして、「個性」「創造性」「心」の時代です。

ホスピタリティ概念について正しく理解して、マネジメントに活用し実践することが大切です。

マネジメントに活用し実践するためには、最もシンプルで大切なことは何か? ホスピタリティを醸成するために何に手を打つことが必要かの視点とその内容を知ることから始めます。

ホスピタリティマネジメントは「人間価値」「サービス価値」「ホスピタリティ価値」を高め、自組織の実情に基づいてこの3つの価値に手を打つこと。その際には、立場・役割を超えて共通言語にして使用することと自分事として取り組むことの2つが特に大切です。

表
出所:
吉原敬典編著(2020)『ホスピタリティマネジメントが介護を変える-サービス偏重から双方向の関わり合いへ−』ミネルヴァ書房200頁の表7-1に加筆し修正した。
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